WHCニュース

  1. 2011.02.02「再生医学研究の最前線」シンポジウムが開催されました。

「再生医学研究の最前線」

「全員野球ならぬオールジャパン体制で取り組みたい」
シンポジウムの冒頭の講演でiPS研究のパイオニア山中伸弥教授は関係者の連携について何度も強調された。お好きだというスポーツになぞらえて、野球でもサッカーでも日本の得意とするところは「全員で」「全力で」取り組むところなのだと。
言葉通りバラバラな個人研究の集大成ではなく、現在の日本の「iPS全員研究」体制とその進捗を目の当たりにするような会であった。
5つの事業、700名を超える研究者があたかも一つの研究所のように情報、知財、成果を共有する体制が、文科省をはじめ、厚労省、通産省と垣根を越えたネットワークに支えられて動き出しているのである。(iPS細胞等研究ネットワークのリンク)


「文部科学省 ips細胞等研究ネットワーク」

そもそも再生医療とは、本人の細胞を培養し加工して、失われた臓器の補てんにする技術、治療をさす。これまで臓器の補てんの試みは人工臓器や臓器移植といった患者本人由来ではない別のものを用いた方法が主流で、拒絶反応をはじめとした問題が多々ある。一部皮膚に関しては、本人の皮膚を培養移植する自家移植があるが、こちらもその供給に関してはまだ課題が多いのが現状だ。
それに対し、再生医療はES細胞や表題のiPS細胞といった「これから何にでも分化しうる細胞“幹細胞”を増殖し、必要な臓器の細胞に分化させて補てんする」試みなのである。
実はES細胞は胚と呼ばれる胎児の初期の細胞なので作成そのものに倫理上の問題がついて回る。
一方、iPS細胞(人口多能性幹細胞)は既に分化している細胞、たとえば皮膚や血液などの細胞を遺伝子操作によって未分化のES細胞レベルまで戻す技術である。つまり、ES細胞のような「受精卵、胎児どこからが命か」といった倫理上の問題はない新型万能細胞といえる。それゆえ、山中先生の研究が発表された時には「歴史が変わった」と世界が騒いだのである。
現にシンポジウム会場には多くの車いすの患者さんや杖をついた方などiPS細胞に期待をかける方々が熱心に耳を傾けておられた。
1000人を超す参加者の熱気の中、山中教授のiPS細胞はもちろん、iPSまで戻さずに分化した細胞をプログラムし直す試み、大動物の体内で幹細胞から臓器を再生する技術、はたまた既に熱傷患者のために供給を始めている日本唯一の自家培養皮膚メーカーによる“再生医療商品の現状”に至るまで次々と発表された。
しかし、期待に沿う日はいつ来るのか…結論を言えば、実用化にはまだ長い道のりがあるという。乗り越えるべき課題として、まず「“安全”な細胞の作製」「“安定した供給”体制確立」「病気の細胞の病態解明」「その応用たる創薬」そして「再生医療の臨床応用への取り組み」、そのためには「若い研究者を支えることが必要」という希望に至るまで沢山の山々が目の前にあると演者の方々は異口同音だ。
早期に応用可能性が高いのは「病態の解明(病変した細胞と健康な細胞の違いなど)」や「治療の効果」を見るためにiPS細胞を活用することのようである。
そして、終始飾らない言葉で淡々と話された山中教授が冷静にはっきりと自身の発見についてこう述べられたのが印象に残った。
「iPS細胞は、いわば時計の針を無理やり捻じ曲げるようにしてES細胞のレベルにまで戻しているんです。ですからこれからどんなマイナスな面があるかわからない。毒性などを含めて安全性をきちんと検証しないといけないのです。」
臨床研究医時代に重症患者さんを診た経験から「治療に役立ちたい」との思いを持って研究者の道を歩んでこられたという真摯な姿勢と冷静な視点から、決して“夢物語”ではなく実現を見据えた“現実”なのだと深い感銘を受けたのである。

報告 特定非営利活動法人 創傷治癒センター 理事長 塩谷信幸

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