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傷と治療の知識
傷についてもっと詳しく
下肢潰瘍
人間の下肢は膝関節と足関節を境目にして大腿、下腿、足の3つのパートに分かれます。
下腿と足はもともと血の循環が良くない部分なので、普通の傷でも治りが遅くなります
。
そこに静脈や動脈の血行不全などが加わると、わずかの怪我でも感染をおこし、悪化して難治性潰瘍になる場合があります。
糖尿病の場合はもうすこし複雑ですが、やはり血行不全と神経障害および感染が主な原因で、最悪の場合は足全体を切断することにもなります。
静脈性潰瘍、動脈性潰瘍、そして糖尿病による潰瘍について説明します。
● 静脈性潰瘍(うっ滞性潰瘍)
人間の下肢では、立ったときに静脈血が下向きに逆流しないよう、静脈の所々に弁がついています。
長時間の立ち仕事、妊娠・出産、遺伝的要因などによって静脈が拡大して逆流防止の弁が完全に閉まらず、静脈血が心臓に還流できずうっ滞することがあります。
こうなるとますます逆圧がかかり、それが悪循環となって静脈系全体が膨れてきます。これが静脈瘤です。
静脈瘤がひどくなると、まず足にむくみが来て疲れやすくなります。こむら返りも起こりやすくなります。
さらに進行するとくるぶしの上の内側や外側の皮膚が崩れてきます。これが静脈性潰瘍です(図1)。「下肢潰瘍」という言葉は主に静脈性潰瘍のことを指します。
第一にすべきことは足を上げて静脈の還流を促すことです。弾性のある靴下(ストッキング)を穿くことも治療の一つです。
初期の場合はこれだけでよくなりますが、慢性になると静脈を取り除くストリッピングという手術が必要になります。最近ではレーザー治療も普及しています。
これでも潰瘍が良くならないことも少なくありません。慢性化した潰瘍は、底面の組織が瘢痕化して血行が悪く、自然治癒力が乏しいためです。
このような場合、不良な組織を外科的に切除して、外用薬、創傷被覆材、局所陰圧閉鎖療法などで血行豊富な良性肉芽組織を誘導した後、皮膚の移植を行います。
● 動脈性潰瘍
動脈硬化や別の動脈の病気で、下肢の動脈が狭窄したり閉塞したりすることがあります。
そうなると末梢部分には十分に血液が供給されなくなり、初期は冷感や歩行時の痛みといった症状が現れます。痛みは少し歩くとフクラハギや足底の筋肉が痛くなり、休むと軽快するのが特徴です。この症状を専門用語で間歇性跛行(かんけつせいはこう)と呼びます。
さらに進行すると安静時にも痛みを感じるようになり、最も重症になると足が壊死に陥ります(図2)。これが動脈性潰瘍です
壊死した部分は切除するのが一般的な創傷治療のファーストステップですが、動脈血流が不足したままの状態で切除手術を行うと新たな壊死が中枢へ広がる危険があります。
治療の原則はまず動脈の血行を再開(改善)することです。循環器内科では動脈に管(カテーテル)を入れて血管を拡げる血管内治療を行います。血管外科は病変部分をまたいで血管を移植するバイパス手術で中枢から末梢へ血行を再建します。
血行が改善したら壊死部分を除去して静脈性潰瘍で解説したのと同じように良性肉芽組織を誘導した後、皮膚の移植で欠損を閉鎖します。
欠損が小さく状態が良い場合は自然と治癒することもあります。
逆に足底などの大きな欠損では荷重・歩行に耐えるクッション性のある皮下組織を含む組織の移植が望まれます。この手術は患者さん自身の背中などから皮膚・皮下組織・筋膜・血管を一塊に採取して、顕微鏡下に足の血管と吻合する技術(マイクロサージャリー)が必要となります。
血管内治療やバイパス手術ができないほど病状が進行している場合や、血行再開が上手くいかない時は膝下や大腿部で下肢の切断を余儀なくされることもあります。
● 糖尿病性潰瘍
糖尿病で足に潰瘍が出来るのか、と思われる方も多いのではないでしょうか。
糖尿病はすい臓のインスリン分泌に異常があり、血糖値のコントロールがうまくいかなくなる病気です。高い血糖は主に神経と血管に障害を与えます。
足の知覚神経が障害を受けて感覚が鈍くなると、靴擦れや胼胝(べんち)ができても痛みを感じないため歩き続けてしまい傷が悪化します。また熱さも感じにくいため火傷を負いやすく傷が深くなります。このようにしてできる傷が典型的な糖尿病性足潰瘍です(図3)。
自律神経の障害で生じる血流の異常、運動神経の障害による足の変形なども糖尿病性足潰瘍の要因となります。
糖尿病患者さんは前述の動脈性潰瘍を合併する頻度も高く、「神経障害+血行障害」で病態が複雑になります。
さらに糖尿病患者さんは感染を起こしやすい状況(易感染性)があり、潰瘍に感染が併発して「神経障害+血行障害+感染」で難治性となります。
治療は糖尿病のコントロール、動脈の狭窄・閉塞があれば血行再建が先決です。
それらの加療と共に壊死組織の除去、外用薬・創傷被覆材・局所陰圧閉鎖療法等による良性組織の誘導、皮膚や組織の移植など創傷治療をします。
血流の改善ができない場合や感染を抑えきれない時は、大腿部や膝下部で下肢を切断せざるを得ないこともあります。
監修:市岡 滋
埼玉医科大学形成外科・美容外科教授、診療部長
特定非営利活動法人 創傷治癒センター 理事
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