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ケロイドと肥厚性瘢痕

【傷あとについて】

 傷は治る時に炎症がおこります。体の表面に傷ができたときに痛くて赤く腫れるのは、この炎症が強くおこるからです。この炎症は、傷が治るにつれ弱くなっていき、目立たない傷あとになるのが普通です。しかし、いろいろな原因で、この炎症が引かず、長引くことがあります。さらには、この炎症が強くなってしまうこともあります。ひとたびこうなると、目立つ傷あとである、肥厚性瘢痕やケロイドができてしまうリスクが高まります。肥厚性瘢痕は、傷で炎症が持続し、赤く盛り上がるもの、ケロイドは炎症が傷だけで留まらず、周囲の皮膚に広がって行くもの、と考えて下さい。ケロイドの炎症は、長く強く続きます。肥厚性瘢痕の炎症は、ケロイドほどではありませんが、普通よりも長く続きます。普通の傷は「炎症が徐々に引くもの」、肥厚性瘢痕は「炎症がやや長く続くもの」、ケロイドは「炎症が長く強くつづくもの」と考えるとよろしいかと思います。これらの炎症を強くする原因を次項で解説します。

傷あとの種類

【傷あとの炎症とケロイド体質】

 傷あとで炎症が長く続く要因があると、傷あとが肥厚性瘢痕・ケロイドとなりやすくなります。傷あとで炎症が長く続く傾向のある体質は、一般的に「ケロイド体質」と言われます。その要因は主として4つ考えられます。

1. 局所因子
 傷が関節の周りや胸の中央、肩にあるなど、傷が日常動作で強く引っぱられる場所にあると、炎症が強くなります。頭のてっぺんや向こう脛など、皮膚をつまもうとしてもつまめない、日常生活では皮膚がほとんど動かない場所では、炎症が長くつづくことはあまりありません。よって頭のてっぺんなどには肥厚性瘢痕・ケロイドはめったにできません。傷が引っぱられるところにできると、肥厚性瘢痕・ケロイドができやすくなる、と考えられます。

2. 全身因子
 高血圧や妊娠で、傷の炎症が強くなります。よって、高血圧の患者さんは肥厚性瘢痕・ケロイドとなりやすく、また妊娠中には傷あとで炎症が強くなり、肥厚性瘢痕・ケロイドが悪化しやすいことが知られています。また、最近の研究では肥厚性瘢痕・ケロイドはそもそも女性に多い、という結果が出ています。すなわち女性ホルモンも傷の炎症を強くすると言えるのです。若い女性が手術を受ける時などは、術後の傷のケアがとても大切になります。

3. 遺伝因子
 いくつかの遺伝的な因子で、ケロイド・肥厚性瘢痕が発生したり悪化することが知られています。Rubinstein-Taybi症候群などの先天性疾患ではケロイドができやすくなります。また、親にケロイドがある場合、子も同じようにケロイドができやすい、ということも時々あります。遺伝的な因子は完全には解明されていませんが、徐々に明らかにされつつあります。

4. 生活習慣
 傷あとで炎症が強くなる要因として、血流が増えることが挙げられますが、たとえば過剰な飲酒や長風呂、辛いものを毎日食べる、といった習慣も傷ができたときには良くない習慣です。またアスリートや肉体労働者(建築業、農業、漁業など)は常に体を動かしますので、傷ができた場合、肥厚性瘢痕・ケロイドができる・悪化するリスクは高くなります。

【ケロイド・肥厚性瘢痕の原因】

 ケロイド・肥厚性瘢痕は、皮膚に傷ができて、傷が治るプロセス(創傷治癒過程)が開始し、炎症が強く長く続く要因があると発生します。もう少し詳しくは、皮膚の深い部分の真皮(真皮網状層)で炎症がおこるときに、ケロイド・肥厚性瘢痕ができるリスクが高まります。ケロイド・肥厚性瘢痕は真皮の慢性炎症と言うことができます。この炎症によってたくさんの血管や線維がつくられるので、赤く盛り上がります。けがややけどや手術だけでなく、ニキビやBCGの予防接種など真皮で炎症がおこるものは、みなケロイド・肥厚性瘢痕のリスクがあります。新型コロナウイルスのワクチンは、筋肉注射ですので、皮膚で炎症をおこすことはまずなく、ケロイド・肥厚性瘢痕のリスクにはなりません。

ケロイドの断面図

【ケロイド・肥厚性瘢痕の予防】

 すべての傷に言えることですが、ひとたび皮膚に傷ができたら、炎症を素早く抑えることが必要です。浅い擦り傷程度ではケロイド・肥厚性瘢痕はできません。しかし、傷が怖くて洗えなかったりして傷口で細菌が増え、感染がおこると、傷が深くなり、真皮で炎症が生じてしまいケロイド・肥厚性瘢痕ができるリスクが上がります。なので、傷ができたらよく洗うこと、そしてできるだけ早く上皮化するように保湿をして、傷が治癒するのに良い環境をつくることが大切です。特に傷が膝や肘など関節の近くや、胸や肩などにできたときは、傷が引っぱられると炎症が強くなりますので、要注意です。そのような場所の傷は、上皮化したあとも、サポーターや包帯で固定をしたり、傷あとケアのためのテープ(アトファイン®など)やジェルシートを貼ったりして、安静に努める必要があります。
 ひとたび、傷あとが硬く赤くなってきた場合は、炎症がかなり強くなってきた証拠ですので、副腎皮質ホルモンのテープ剤(エクラー®プラスターやドレニゾン®テープ)を使用します。早期発見・早期治療開始が鍵となります。まだ炎症が弱いときに、炎症を抑えることが大切です。

【ケロイド・肥厚性瘢痕の治療】

 現時点で代表的な効果のある治療は、1. 副腎皮質ステロイド剤(テープ・注射)、2. 手術、そして3. 放射線治療の3つです。これらは保険を適用して治療が可能です。傷の専門治療を行う形成外科が主として治療を行います。

1. 副腎皮質ステロイド剤
 副腎皮質ステロイド剤は炎症を強力に抑えるため効果的です。まず始めに用いられる治療はテープ剤(エクラー®プラスターやドレニゾンテープ®)です。特にエクラー®プラスターの効果は高く、皮膚が厚い大人にも大変有効です。皮膚の薄い小児や高齢者にはドレニゾン®テープでも効果が得られます。かぶれを生じなければ長く使用することで肥厚性瘢痕やケロイドの盛り上がりが改善します。できてからある程度時間の経ってしまった厚みのあるケロイド・肥厚性瘢痕では、基本的に1年以上は毎日テープ剤を貼り続ける必要があります。
 それでも改善を認めにくいときは注射を行います。表面から薬を染みこませるテープ剤の治療は時間がかかるので、時々外来で注射をすると隆起が早く改善します。ただし、薬の量が多すぎると女性の場合生理不順になったりすることがあるので、要注意です。

2. 手術
 肥厚性瘢痕やケロイドは、手術しない方法で軽快する場合も多いですが、ひきつれの原因になったり、目立つ場所にできた場合は、手術の適応となります。今まではケロイドに関しては安易に手術してはならないとされてきました。それは、ケロイドは再発しやすいため、単に手術するだけでは前より大きなものになってしまうことがあるためです。そこで、形成外科では、できる限り再発しないような縫い方の工夫をし、さらに術後の放射線治療を行って、完治させることができるようになりました。
 肥厚性瘢痕やケロイドを摘出した後に、ケロイドが再発しないように縫合することが大切です。ケロイド・肥厚性瘢痕は真皮に力がかかることで炎症が強くなりますので、深いところでしっかり縫って、肥厚性瘢痕やケロイドができる真皮に力がかからないように工夫します。真皮を縫う前に、創縁がお互いに自然にくっついている状況をつくることが大切です。ケロイド・肥厚性瘢痕を予防するためには、真皮縫合よりも、深い皮下組織の縫合が大切です。

3. 放射線治療
 ケロイドの術後には放射線治療を行うことがあります。放射線治療は、強力に炎症を軽減させる効果があります。しかし、副作用として周囲組織への障害を考えねばならず、将来的にわずかながらその部位の発がんのリスクが増える可能性は否定できません。しかし、最近のケロイド治療における放射線治療では、線量や照射方法が改善されていますので、発がんのリスクは最小限に抑えることができるようになりました。

 その他、ケロイド・肥厚性瘢痕に対して、飲み薬や、圧迫・固定療法、レーザー治療(保険適用外)なども行われますが、これらだけで厚みのあるケロイド・肥厚性瘢痕を完全に治癒させるのは難しいので、複合的に使用します。

【まとめ】

 ケロイド・肥厚性瘢痕は真皮で長く続く炎症が原因です。皮膚に傷ができたとき、できるだけ早く炎症を抑えることを行うことで予防でき、そして小さいうちに治療を開始すれば、傷あとも目立たず治療することが可能です。時間が経ってしまったものも、無理なく治療できる時代になりました。ケロイド・肥厚性瘢痕でお悩みの患者さんは、形成外科に相談してみてください。

監修:小川 令
日本医科大学 形成外科 主任教授
特定非営利活動法人 創傷治癒センター 理事

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